【上流工程】IPAによる「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」のメモ(1)
はじめに
コチラは私が新卒現在携わっている上流のプロジェクトで、
上流について何も知らないため、勉強のために読んで勉強したことをまとめたものになります。
こちらのドキュメントに関しては、
IPAの公式サイトにてPDF版(無料)と書籍版(有料)が配布・販売されているため、ぜひ手にとってみてください。
めっちゃボリュームがあり、これで無料なのか…というほど中身がギュッと詰まっていました。
ITシステムを取り巻く事情
ITシステムとビジネスの関係性はここ数十年で大きく変わりつつあります。
IPAは以下のようにその関係性を定義しています。
〜1990年代:置き換えステージ 〜2000年代:効率化ステージ 〜2010年代:競争力強化ステージ
元マイクロソフトエバンジェリストの長沢氏は同じような形で定義しており、
2020年代はITがビジネスのコアとなるように少し細かく定義しています。
置き換えステージ
所謂、人間の手作業を機械化したもの。
ビジネスにとってITは便利程度のもので、台帳管理等と言った事務処理がシステム化される事が多かったそう。
この頃から部門ごと・業務ごとへのIT化が加速していったため、サイロ化が進んできたとIPAは述べています。
効率化ステージ
〜2000年代より始まる効率化ステージ。
一連の業務がシステム化されて、全体最適化の時代がやってくる。
サイロ化された業務ごとのシステムをデータの連携や標準化することで、統合システムとして強化されていきます。
その際、全体最適化のアプローチ方法として脚光を浴びたのがEA(Enterprise Architecture)でした。
2004年のITmediaでも取り上げられていますね笑
エンタープライズ・アーキテクチャとは、経営戦略を企業内の各レベルで実行するために、「誰が」「何を」「どのように」行うか、経営資源を構造化して、実行体を作り出すための企業構造設計図のことです
ビジネスとITを全体最適に導くEA(上) - ITmedia エンタープライズ
ただ業務に対する既存システムのレベルダウンは許されなかったため、最適化といっても現状機能を複雑化していても踏襲せざるを得ず、ベンダ企業中心の要件定義ではプロジェクトの多くは失敗に終わったとIPAは言います。
競争力強化ステージ
現在進行しているステージ。
統合されたシステムに対して、ビジネスをより効率化し直接利益につながるように求めるようになってきた時代です。
長沢氏が述べるITをコアとしたビジネスが発達してきて、企業は市場に対する競争力維持強化の為にDX(デジタルトランスフォーメーション)をすることが重要になってきました。
既存のシステムとシステム開発の現状
ビジネスをなるべく崩さないように、既存システムを魔改造をした結果、ドキュメントとシステムが乖離していたり複雑になってしまっているシステムが多い。
10年ぐらい前に業務システムを統合することが流行った時期がありました。実際に私が担当しているお客様の中にも、POSシステムから基幹システム、バックオフィスとなる管理システムまでシステムを統合している会社があります。一見システムが統合されて効率化しているように見えるのですが、何か新しいサービスを追加開発したい場合に、影響が各システムに及ぶため、通常より開発費がかかったり、納期がかかったりして、結果新しいサービスの開発をあきらめるということがあるそうです。システムを統合することによって、かえって身動きが取れなくなってしまい、保守費や運用費も高価となってしまうため、思っていたような効果が出ていない、というのが実情ではないかと思っています。 第1回 DX時代における現状のシステムの課題|Digital Shift Magazine
IPAはこういった経営者は「既にシステムは存在していて、多大な投資をして再構築しなければならないのか」という疑念を感じることが多いと言う。
また、運用と保守(ランザビジネス)に人材が割かれている。
要件定義ガイドでは2019年度の資料であったため、2020年度の最新版をここに引用します。
同報告では、やや刷新への予算が割かれるようにはなったが大きな変化は見られないと言う。
こういった既存システムへの背景がある中、
システム開発の現状の課題としてIPAは本書で以下を挙げています。
・納期遅延と品質満足度の低さ ・ユーザーとベンダの関係 ・再構築の難しさ ・全体最適化の難しさ ・システム部門の苦悩
これまでのことを踏まえると、
現状システム開発は既存システムに変更を加えようとせず、安易に現行踏襲となったり、保守のみで既存システムが複雑化し、 結果として刷新が出来ないという現状があるということです。
DX時代のシステム開発
長沢氏がITがビジネスのコアになると述べるように、ITはこれからを生きる企業にとって必要不可欠な存在となりつつあるようです。
IPAはそんな必要不可欠なDXを本書でこう述べています。
DXとは、AIなど最先端のIT技術(デジタル技術)を使って業務を効率化すれば良いというものではなく、新たな価値を創出し、新しいビジネスモデルに変えていかないとこれからの時代は競争優位に立てない企業が出る、という警鐘である。
あらゆるモノがインターネットで繋がり、
ステークホルダーとデータの量が多くなる中、競争優位に立つためにはDXが必要不可欠。
IPAはDXは以下の2つの事を行うべきと述べています!
① デジタル時代に対応した新たなビジネスモデルの構築と価値の創造 ② DX実現を困難にしている既存ITシステムの再構築
UXの高いシステムやデータ活用をしたシステム、既存システムのコスト・リスク分析等を行うことが大事と述べています。(詳しい内容は読んでみてください)
そういった点でしっかりとした上流工程における要件定義が重要というわけだそう。(やっと要件定義出てきました)
要件定義に必要な意識と考え方
民法の観点
これは初めて知ったのですが、こういったDXが到来している社会経済の変化において民法が一部改正されたそうです。
その中でIPAは以下の3つをポイントとして挙げています。
①【請負】瑕疵担保責任の改正 ②【請負】プロジェクトが頓挫した場合でも報酬請求が可能 ③【準委任】成果完成型の準委任契約が認められる
1つめの変更点は「瑕疵」という言葉が「契約不適合」という用語に置き換わったことだ。つまり「請負の目的物に瑕疵があるとき」ではなく「請負の目的物が契約の内容に適合したものでないとき」、ITベンダーは責任を負うという定め方になった。
[第1回]120年ぶりの民法改正 契約解除の条件などが変わる | 日経クロステック(xTECH)
日経XTECHではこの部分に関して重要視はしていませんが、
IPAは瑕疵担保責任という言葉は以前「明確なバグ」を指していたが、「契約の内容」というビジネスの目的や業務がシステムによって達成される状態ということになったため、上流における要件定義の重要性は高まっていると述べています。
この、よりビジネスの目的を達成しうるシステムの要件定義をするために、以下の3つが重要と本書で述べています。
①経営や業務に貢献する要求を見極める ②要求を実現する新しい業務を作り上げる ③要求仕様を「抜け」「漏れ」「あいまい」なくシステム開発につなげる
つまり、経営や業務に対する深い知識と発想力、対話が「より」重要になってきそうですね…。
まぁそんな中出てきた開発手法がアジャイルだとは思いますが。
技術力の観点
現在1から全て開発することはなく、クラウドだけでなくいろいろなサービスを組み合わせながら開発するのが主流です。
なので、現在開発者に問われているのは単なる技術力だけでなく、
ビジネス価値を昇華させる人材になる必要があるとのこと。
ですが技術もキーになりえるので、技術力に長けた人も上流に混ざる必要があるということです。
IPAは更に機能にも言及しています。
ユーザーはビジネスに直結したシステムを求めがちなため機能に関する要求がほとんど。
そのため可用性と言った非機能要件が疎かになり、結果的に満足度の低いシステムになってしまう。
あるいは機能の差別化がとれなくなる中で、どう非機能で差別化をするかとも述べられています。
確かに私は初めてRFPを見た時、基本的な機能の区別をどこでつけるのだろうと思っていました。。。
要件定義に関する具体的な部分の(2)につづく…